#5 北近畿タンゴ鉄道(きたきんきたんごてつどう)
さて、現在2015年の3月です。世間が北陸新幹線開業で大フィーバーしている裏で、ひっそりと丹後の鉄道にも新しい動きがあるらしい。関東で暮らしているとこういうニュースがなかなか聞こえてこないのですが、たまにちょっと思いついて検索してみたら当地としてはビッグニュースだったりする。時々は調べてみなきゃいけません。それで、丹後半島唯一の鉄道路線である第三セクター・北近畿タンゴ鉄道の運行会社が、なんと民間企業に交代するらしいということです。新幹線が開業したら在来線が第三セクター化されて、今は全国あちこちで第三セクターの鉄道が生まれているのに、丹後は逆方向に進んでいく。これはなかなか面白いことです。
しかし北近畿タンゴ鉄道は赤字の多い地方鉄道の中でも特に赤字の多い路線ということになっておりまして、赤字額が日本一である。Wikipediaを見たら2009年度の共同通信のニュースが引用されていて、それにリンクしておきますが、(“三セク鉄道の黒字5社だけ 09年度、損失総額34億円”)二位以下との差がたいへん大きい。丹後が日本一になる数少ない例です。よく民間企業が手を挙げたなあと、つまりそこがビッグニュースなのです。心配しているのは一体何年続くのかということで、シビアな民間企業はさっさと撤退なんかしちゃうかもしれない。それでも、一部廃線の噂があった大赤字の路線が数年だけでも延命したのは涙を流すほどに嬉しい。
それで、赤字というとどれほど酷い路線なんだろうとみなさん考えます。壊れかけの車両とガタガタの線路でヨボヨボの運転士が空気を乗せて脱線寸前みたいに走ってるんじゃなかろうかと。ところが案外そんなこともない。線路なんか結構しっかりしてて、これまでにいくつか乗ったローカル線の中には目で見ても明らかに線路がボコボコしてたり低速でも酷く揺れたりするような路線もあったけれど、北近畿タンゴ鉄道はそんなことはないです。きちんと走ります。車両はローカル線のわりには明るいデザインだし内装も悪くはなかったのだけれど、導入から二十年以上経つとさすがに塗装の剥がれ目から錆が見えて赤字線らしい装いになってきました。
車両といえば、ローカル線のわりにはバリエーションがいろいろあって楽しい。各駅停車列車は普段は上の写真のKTR700/800型というやつで、以前は青い塗装だけだったのが、近頃は色々なのが走っております。内装が更新されたのもあるようです。あとは、ちょっと前に話題になりましたが、鉄道界隈で有名な水戸岡さんというデザイナーによる「あかまつ」「あおまつ」「くろまつ」もあります。普通列車だけでもこれだけあって、他には特急用のKTR8000(下)と、今は定期列車では走っていないのかもしれませんが初代「エクスプローラー」のKTR001型というカッコいい車両もありました。宮津や天橋立までは宮福線経由でJRの普通・特急電車も入ってきています。これだけいろいろあるというのもきっと地方のローカル線では珍しい。
ところでローカル線というと期待されるのは「絶景」「のどかな田園風景」なんかですが、北近畿タンゴ鉄道はそれほどでもない。田んぼはありますけど、太平洋側みたいな広大な穀倉地帯ではなくて狭い平野に田畑が点在するような具合でそれほど驚きはない。しかし日本全国どこへ行ってもそんなものです。絶景があちこちにあるわけではないです。「まあ、日本にはこんな、とりたてて優れてはいないがそう悪くもない、特徴のない田舎があるのだ」と思いながら車窓を眺めていただければ良いし、特徴は無いにしても全く同じ風景は他では見られないのだから、それはそれで唯一無二の体験です。
それから、四季折々というのがある。春になれば並木というほどではないけれど桜が見える。夏は暑い。ときには冷房が故障して夏らしさが増します。秋は稲藁の匂いがする。冬は雪が積もる。窓が結露して車内が湿気てじっとりとする。土日や夏休みだと高校生が少なくて朝夕も閑散としていますが授業がある日は高校生だらけで座れない、というか実は空席もあるのですが高校生は遠慮してあまり相席をしないので通路に溢れます。あとは床に直に座って喋っている高校生がいるのは丹後に限らずどこのローカル線でも同じです。
というところで、さて来月から運行会社が代わります。代わったあとに何が変わるのかは私はあまりよく知りません。京都丹後鉄道のウェブサイトはもうできているようですのでそちらをご覧ください。ちりめん工芸館にも実はちょっとだけ影響がありまして、ちりめんだよりの「北近畿タンゴ鉄道」2種類、これはなかなかの人気商品だそうですが、商品名が「京都丹後鉄道」になります。どうぞご承知おき下さい。